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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2007)シンポジウム

セッション 4D  社会システム(EIP)
日時: 2007年7月5日(木) 8:30 - 10:10
部屋: 松〜梅
座長: 中野 潔 (大阪市立大学)

4D-1 (時間: 8:30 - 8:55)
題名国民保護計画における住民避難誘導を想定したリアルタイム非常時情報通信パイロットシステム
著者*多田 浩之 (みずほ情報総研株式会社 情報・コミュニケーション部), 小澤 益夫 (コンテンツ株式会社), 日下部 幸 (みずほ情報総研株式会社 情報・コミュニケーション部), 猪俣 敦夫 (独立行政法人 科学技術振興機構), 能瀬 与志雄 (みずほ情報総研株式会社 情報・コミュニケーション部), 熊平 美香 (クマヒラセキュリティ財団), 大野 浩之 (金沢大学総合メディア基盤センター)
Pagepp. 733 - 743
Keyword国民保護計画, 非常時通信, 避難誘導, 災害救援通信
Abstract日本では、2004年に、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)が制定された。この法律は、テロ・武力攻撃事態において国民の生命や財産を保護するため、国や地方公共団体等の責務、住民避難に関する措置、避難住民等の救援に関する措置、武力攻撃災害への対処に関する措置等に関して必要な事項を定めている。現在、市町村を含む自治体等は、この法律に基づき、国民保護措置を行う実施体制、住民の避難や救援に関する事項等を規定する「国民保護計画」を策定している。「国民保護計画」の枠組みにおいては、テロ・武力攻撃が起きた場合に、国は、都道府県知事に対して警報の通知を行い、必要であれば住民の避難措置を講ずるように指示する。市長村は、都道府県知事からの指示を受けて、住民への避難指示の伝達や住民避難誘導を行う。実際、市町村は、ファーストリスポンダーとして応急対応に当たるほか、警察や自衛隊への避難誘導の要請等を含め、主体的に住民避難措置を実施する役割を担っている。このような中、市町村は、実効性のある住民避難誘導の方策等を検討する必要性を強く認識している。特に、NBCテロの場合には、NBC剤の大気拡散等により、事態の急激な変化等の予期せぬ事態に進展する可能性があり、迅速かつ効果的に住民避難誘導を行うことが極めて重要になる。これを実行するに当たって鍵を握るのは、非常時通信である。非常時通信は、危機管理のプレーヤーの視点に基づき、政府・応急対応機関同士の通信(G to G)、政府・応急対応機関から地域・市民への通信(G to C)、地域・住民から政府・応急対応機関への通信(C to G)、地域・住民同士の通信(C to C)の4つのタイプに分類される(GはGovernment、CはCitizenの略)。 最近、災害の大規模化やテロの同時多発化にともない、非常時通信の役割が一層重要になってきており、危機管理体制と危機管理のプレーヤーの視点に基づく、非常時通信に関する統合的研究が必要になってきている。筆者らは、これまで、テロを含む最近の壊滅的災害における危機管理の事例等を調査・分析し、危機管理と非常時通信との関係、4つのタイプ別の非常時通信のフレームワーク等に関する検討を進めてきた。この4つのタイプのうち、G to Gの非常時通信は災害救援通信(Telecommunication for Disaster Relief:TDR)と呼ぶが、このタイプの非常時通信は、大規模災害や事態の進展予測が困難なNBCテロ災害において非常に重要な役割を持つ。このような事態においては、災害対策本部での情報収集、状況分析、意思決定等に資する統合的なマルチメディア情報マネジメント、災害対策本部と被災現場で展開するファーストリスポンダー間での連絡・指示・報告の迅速なやり取り、リアルタイムでの統合化マルチメディア情報の受発信、インターネットでの統合化マルチメディア情報の高速配信(専用の通信基盤を必要としない)等が必要となる。筆者らは、これらの事項をTDRの仕様概念として位置づけ、市町村が担う実効性のある住民避難誘導を支援するためのTDRの仕様概念を具現化する研究を行ってきた。 本稿では、以上を踏まえ、TDRの仕様概念を具現化することを目的として開発した、国民保護計画における住民避難誘導を想定したリアルタイム非常時情報通信システム(パイロットシステム)について述べる。本研究では、まず、大規模スタジアムでの化学爆弾テロを想定し、テロ発生後の応急対応と住民避難誘導シナリオを想定した。これに基づき、災害対策本部(災害対策用コンピュータシステムを持つと想定)、被災現場のファーストリスポンダーや避難誘導員(モバイル防災情報端末を持つと想定)間での時系列での交信と情報のやり取りの画面を設計した。また、情報統合編集・リアルタイム高速情報配信システム(コンテンツ社がアプリケーション開発と販売権を持つ)を利用して、迅速かつ効果的な情報の収集・統合・表示等ができ、避難誘導等の意思決定等に資する緊急時情報統合型マネジメント環境(災害対策本部で運用されることを想定)を構築し、インターネット上での3者(災害対策本部、ファーストリスポンダー、避難誘導員)間のリアルタイム情報通信を模擬する環境を構築した。さらに、この環境上で、想定シナリオに基づき3者を模擬した双方向の非常時情報通信実験を実施した。この実験により、災害対策本部(模擬)にて、同期・非同期で収集した各種情報を容易に編集・統合・表示し、統合編集された大規模情報(10km四方規模のGISマップ・航空写真を含む))をインターネットでリアルタイム配信し、避難誘導員(模擬)等がモバイル環境で瞬時に情報を閲覧できることを示した。

4D-2 (時間: 8:55 - 9:20)
題名被災地内に通信インフラを再構築する研究
著者*山崎 浩司, 伊藤 将志, 渡邊 晃 (名城大学大学院理工学研究科)
Pagepp. 744 - 748
Keyword災害システム, メール通信

4D-3 (時間: 9:20 - 9:45)
題名言語化しにくい画像を用いた出席確認システムの構築
著者*吉野 孝, 中濱 誠司 (和歌山大学システム工学部)
Pagepp. 749 - 754
Keyword授業支援, 出席確認
Abstract大学における出席確認の作業は,比較的時間のかかる作業であり,講義時間を圧迫している.また,従来より,「代返」という行為が日常の講義で行われており,その対策が課題となっている.代返防止は教育効果の向上にもつながるが,代返防止のための確実な出席確認作業は,講義時間を圧迫するというジレンマもある.そこで,これらの問題を解決するために,短時間の出席確認が可能で,代返のしにくい出席確認システムの構築を目指している.今回,「言語化しにくい画像」に着目した出席確認システムAGENGO の構築を行った.本報告では,本システムの構築における「言語化しにくい画像」の実験および開発した出席確認システムの試用について報告する.言語化しにくい画像の評価実験およびAGENGO の実際の講義での試用において,次のことが分かった.(1)画像の種類は画像の説明しづらさに影響を与えることが分かったが,画像の数は,画像の説明しづらさに影響しなかった.(2)AGENGO の試用実験の結果より,出席確認に要する時間は約4〜5分であることが分かった.(3)携帯電話のキャリアや機種,講義室の場所によって電波状況が悪い所があるため,そのような状況への対応を検討する必要がある.

4D-4 (時間: 9:45 - 10:10)
題名理工系学部から考える観光教育の可能性
著者*井出 明 (首都大学東京)
Pagepp. 755 - 760
Keyword観光学, 教育, ユビキタス
Abstract 近年、日本では観光系学部や学科の新設が進んでいる。ここ2年間の国公立大学の動きに限ってみても、和歌山大学・琉球大学・山口大学が学科を改組して社会科学系学部の一部を観光系の学科に変更し、さらには北海道大学では大学院におけるMBA的教育として観光科学研究科を設立した。私立大学では、平安女学院大学、流通科学大学、大阪観光大学に続々と観光系の学部学科が出現している。  観光学の地位向上とすそ野の拡大を願う観光系の研究者にとっては、喜ばしい現象ではあるが、手放しで喜べる状況とも言い切れない。これらの大学の多くは、既存学部の不振が引き金となって観光系学部・学科の創設にシフトしており、いわば客集めのための観光信仰とも言え、観光をどこまで学術的に探求できるかはまだ未知数のところがある。  確かに欧米における観光学の発展の経緯を考えた場合、人文・社会系学部の改組によって観光学科の設置を図ろうとすることは妥当性を持つ。ヨーロッパでは、観光は文化研究の対象として確固たる地位を有している。主要大学には観光担当の教授職がおかれ、熱心に研究・教育が進められている。また、アメリカにおいては、コーネル大学やジョージワシントン大学で見られるように、観光学は「応用経営学」とも言える地位を有している。したがって日本における観光教育も人文・社会系が基盤になると言うことは十分に得心がいく。  一方アジアに目を向けると、理工系大学の特に情報系の学部・学科において観光に関する教育が幅広く行われている。特に有名なのは、ジャッキーチェンが教授を務める香港理工科大学であるが、この他にも台湾や中国の理工系大学の情報系学科において観光教育が展開されている。  このようなアジアの大学の現状を鑑みたとき、なぜ日本以外のアジアの大学では、情報系の学部・学科において観光教育が可能となっているのかを考える必要があるであろう。その理由として、日本をのぞくアジア諸国では、観光産業をこれまで日本で考えられていた「移動と宿泊」(換言すれば「足と枕」)として捉えているのではなく、巨大な情報の流通システムという点で俯瞰されていることが挙げられよう。観光産業は従来、移動手段・宿泊施設・飲食といったカテゴリーの各店舗毎に情報が存在し、ステークホルダーの間ではほとんど情報がやりとりされることもなかった。いわばスタンドアロン的に情報は閉じられていたのである。しかし近年、ネットワークの爆発的普及は、観光産業の形を根本から変化させている。これまで個別に存在していた観光産業における情報が結合し、観光マーケティングは抜本的な変化を遂げつつある。特徴的なものとして、航空会社におけるマイレージサービスがあるが、これはマイレージ番号を通じて、顧客の経済行動を統一的に把握するための手段となっており、高度のCRMを実現させている。 また、観光を文化的営みの面から捉えても、観光は単に人が移動するという事実を本質としているわけではなく、観光者が観光地を訪れることで、現地の文化と対峙し、その結果として自分が背負ってきた文化を再認識するという効用を持っている。同時に、観光者の受け手側にとっても、自分たちが認識してこなかった地域文化の特徴を、観光者を受け入れることによって外部から認識可能になると言う利点を有している。このように、観光は異なる文化的背景を持つ者同士の出会いを創出するという、いわば文化的な情報交流の側面を強く有している。  本稿では、上記の状況を踏まえ、情報系を中心とした日本の理工系大学における観光学科設置の可能性と教育すべき内容について概観する。この論点は、純粋な意味での理工系の研究には当たらないが、情報系学部・学科における志願者が激減している昨今、生き残りのための新しいブレークスルーを模索するために考えておく必要がある。同時に、工学系における観光教育のあり方を検討することで、既存の観光系学部・学科が有している問題点が浮かび上がり、今後のカリキュラム開発等も含んだ観光系教育全般への貢献も期待できる。さらには、観光系学部では、「先生」の調達が大きな問題となっているが、どのような人材を教員として備えるべきであるかという観点からの議論も展開する予定である。