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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 2C  QOSとPAN(MBL)
日時: 2008年7月9日(水) 15:30 - 17:10
部屋: シリウス
座長: 渡邊 晃 (名城大)

2C-1 (時間: 15:30 - 15:55)
題名無線LAN環境におけるトランスポート層プロトコルの相違による帯域公平性の検討
著者*新井 絵美 (お茶の水女子大学 ), 平野 由美, 村瀬 勉 (NECシステムプラットフォーム研究所), 小口 正人 (お茶の水女子大学)
Pagepp. 304 - 316
Keyword無線LAN, QoS, TCP, UDP, 公平性
Abstract近年,動画ストリームや音声(VoIP)などのマルチメディア通信の需要が高まっている.そのような通信においてQoS(Quality of Service)は大変重要である.しかしQoSと言ってもそこで要求される品質はメディアやアプリケーションにより異なる.そのため,マルチメディア通信のための「QoS」を定義し,これが保証される仕組みを作る必要がある.また,インターネット(TCP/IPに基づくネットワーク)の本質は「ベストエフォート」であるが,QoSが必要とされる場面が増えてきたため,インターネットのプロトコルにQoS保証の仕組みを組込む方法が検討されてきている.この1つの例がTCP-AVである.これは,ルータなどにQoS制御を実装するのではなく,既存のTCPをこれに載せかえて通信を行うというものである.TCP-AVでは,輻輳状態により輻輳ウィンドウ制御パラメータを変更する.これにより目標帯域を確保させるようなことが可能となり,ストリーミング通信などを効果的に行うQoSを実現できる.TCP-AVにより有線環境における帯域確保などのQoS保証が達成されるようになった. 一方で,無線LANが広く普及したことから,有線環境と同様の無線環境において通信の品質が保証されることが望まれている.その例は,前述のVoIPなどである.ユーザは常に同じ品質でアプリケーションが利用可能であることを要求するが,システムとしては無線環境において,有線環境の場合と同様に品質保証を行うことは,より困難である.そこで本研究ではTCP-AVのような帯域確保型TCPが無線環境においても想定しているように振舞うかどうかを検証する.特に実機を用いて評価を行うことにより,シミュレーションではモデル化が困難な端末ごとの機器の差異やバッファの大きさなどによる影響を明らかにし,実環境で有効なQoS手法について検討する. 無線環境におけるQoS保証を実現するために,本論文では無線環境におけるQoSについての2つの重要な問題に焦点をおく.1つは無線LANの公平性の問題であり,もう1つは実機における実装の差異に起因する問題である.無線LANの公平性の問題は端末の台数が増えたときに顕著になり,すでにシミュレーションにおいて,複数のTCPフロー間におけるスループットの不公平の発生が示されている.これは,ネットワークの非対称性と送信権の平等性により起こるといわれている.上記特性の下では,無線LAN AP(Access Point)のバッファにおけるTCP-ACKの破棄が不公平につながるといわれている.しかし,無線上のノイズや電波干渉,デバイスドライバの構築法やOSの構成など,シミュレーションでは考慮されない点が実機には存在するため,このような不公平が実機においてどの程度起こるのかどうかは明らかではない.例えば実機のAPのバッファサイズはメモリや装置の低価格化などの要因で変動していると考えられ,現状の実システムでバッファが問題になりうるかどうかを把握することは非常に重要である.また,無線LANインタフェースが単一の環境における,台数と不公平の関連の有無についても検証する.さらに,その時のトランスポート層プロトコルによる差異の検証も行う.次に,無線LANインタフェースの構成方法に起因する実機特有の不公平に関しても考察する.これらの実験により実機の無線環境における課題を議論した上で,有線環境においては品質保証を実現することができるTCP-AVが実機の無線環境で期待通りの働きができるかについて検証を行った.

2C-2 (時間: 15:55 - 16:20)
題名FMCを想定したリアルタイムメディアストリーム転送の評価
著者*吉田 瑞輝 (静岡大学大学院情報学研究科), 峰野 博史 (静岡大学情報学部), 水野 忠則 (静岡大学創造科学技術大学院)
Pagepp. 317 - 324
KeywordSIP, FMC, PAN, リアルタイム通信, メディアストリーム
Abstract近年,電話回線網やIP網などのコアネットワークをALL-IP化する新たなサービスプラットフォームとしてのIMS(IP Multimedia Subsystem)や,固定系と移動系の通信を融合するFMC(Fixed Mobile Convergence)が注目されている.また,情報家電が次々とインターネットに接続され,1人のユーザが多数の端末を使用するマルチデバイス通信環境が想定される.IMSが実現することで,IPをベースとした単一システムとして制御機構が水平統合化され,All-IP化した媒体機器による固定系と移動系の通信を融合したマルチメディアサービスを提供することが可能となり,異種混在したネットワークを意識することなく移動系端末が周辺機器とPANを形成して周辺機器と連携したサービスの利用が可能になると考えられる.我々は,このようなFMCの概念を拡張したユーザ中心のサービスモビリティを実現する形態をmPAN(Mobile Personal Area Network)と呼称している. 本研究室では,制御ポイントとなる携帯電話がブロードバンド接続されたホームネットワーク上の情報家電とmPANを形成する環境を想定し,mPAN内のリアルタイムマルチメディアストリーム(受信側,送信側で送受信される音声・ビデオ映像のデータの流れ) をシームレスに周辺入出力デバイスへ転送するmPANストリーミングモビリティアーキテクチャを提案し,その実現性に対してアプローチしてきた.具体的なサービス例としては,ユーザが携帯電話を用いて通信相手とTV電話をしている最中に携帯電話による簡単な操作で「ユーザが参入しているホームネットワーク内のデバイス(TVやオーディオ機器など)へ通信相手と交わしているメディアストリームを転送する」,「デバイスへ転送していたメディアストリームを別のデバイスへ転送する」,「デバイスへ転送していたメディアストリームを携帯電話へ戻す」といったサービスを実現している. 本mPANアーキテクチャは,セッション制御においてIMS標準規格のSIP(Session Initiation Protocol)を用いており,通信相手とマルチメディアセッションを確立するためにエンドツーエンドでネゴシエーションをする特徴を持つため,メディアストリームを転送する際にセッション制御反映までの遅延が問題となっていた.我々は,これを改善する方式として,予めデバイスの起動時に自動的にネゴシエーションを開始してGWとセッション確立させておくことで,転送要求時にはセッション確立するためのネゴシエーションを省略し,転送処理シーケンスの簡素化を可能とする手法(起動時接続手法)を提案・検討し,実環境を想定したプロトタイプを実装して性能評価を行った.性能評価には,各転送の転送開始から転送終了までのシグナリングに要する処理時間と実際にメディアストリームが転送されて各端末へ表示されるまでの総転送処理時間に関して測定を行った.

2C-3 (時間: 16:20 - 16:45)
題名ユーザ主導サービス構築のための仮想ネットワーキング技術 〜(1)プライベートネットワークの基本設計〜
著者*中内 清秀, ベド カフレ, 井上 真杉 (NICT), 松中 隆志, 蕨野 貴之, 岸 洋司 (KDDI研)
Pagepp. 325 - 332
Keywordプライベートネットワーク, パーソナルネットワーク, ユーザ主導ネットワーキング, ユーザ・デバイス認証
Abstract携帯電話や情報家電などネットワーク機能をもつデバイスの多様化,高機能化と,FTTHによる大容量アクセス方式や3G以降の無線アクセス方式などアクセス網の多様化,高速化が同時に進行している.このような高機能なデバイスが高速なアクセスシステムによってネットワーク接続される環境は,デバイス同士がユーザの要求に応じて自在にネットワークを構築することに対する障壁を低くする.Web2.0やP2Pネットワークに代表されるように,結果としてユーザが自ら情報を積極的に発信するクライアント同士の通信がより重要になると考えられる.その一環として,ユーザが所有するデバイス間または,特定のユーザのデバイス間での情報共有,情報配信などがますます活性化されると予想している.そこで本研究では,2010年以降を想定し,複数のデバイスから構成され,ユーザが要求するサービスを提供可能な仮想環境を,簡易な操作でかつセキュアに構築することを目的とする. 上述した環境は本研究の必要性に説得力を持たせるものの,一方でデバイスの増加,多様化に伴うユーザに対するデバイス管理負荷の増加,デバイス及びアクセスシステムの多様化に伴うデバイス間通信・連携の複雑化,及びデバイスへの不正アクセス,デバイス間通信の安全性といった課題を解決する必要がある.そこで筆者らは,ユーザの現在の環境(アクセスシステム.利用デバイス)及び要求するサービスに応じて,ネットワークをまたがって関連するデバイスが連携し,ユーザやユーザグループに閉じたセキュアな仮想ネットワークをユーザ自らの意思で動的に構築するユーザ主導型プライベートネットワーク (PN: Private Network) を提案する.本稿では,PNの概念,アプリケーションシナリオ,及び基本構成要素について述べる. PNは,PAN(Personal Area Network)の概念を拡張させたものである.PANがユーザを中心としてBluetoothなどの近距離無線技術を用いて複数のデバイスが構成するプライベートな物理ネットワークであるのに対し,PNはユーザを中心として,遠隔にあるデバイス同士が管理ドメインをまたいで論理的に構成するプライベートな仮想ネットワークである.PNでは利用するアクセスシステムを問わず,デバイスは無線,有線のどちらの接続形態をもっていてもよい.また,ここでは狭義の論理ネットワークにとどめず,その上でユーザもしくはユーザグループに対して提供されるプライベートサービスまで含めてPNと定義する.そのため,例えば,ファイル共有のためのPNを「ファイル共有PN」,映像配信のためのPNを「映像配信PN」と呼ぶ. ユーザ主導型PNを実現するための要件として,(1) ユーザの負担にならない操作性,(2) デバイス間通信の秘匿性,(3) ユーザ主導で自在に構築できる柔軟性,(4) デバイス間のスムーズな連携と相互接続性,が挙げられる.これらの要件を満たすために,筆者らは「オペレータ通信基盤を活用した強固なユーザ認証・デバイス認証」,及び「フラット構造」という特徴をもつPNアーキテクチャを検討している.PN構築手順を簡略化するため,また強固なセキュリティを実現するため,ユーザ認証・デバイス認証に関しては,IMS (IP Multimedia Subsystem) / MMD (MultiMedia Domain) のようなオペレータ通信基盤における認証方式を拡張し,PN構成デバイス一般の認証に応用する.また,PNのネットワーク構造をフラット化することにより,ユーザ単位,もしくは管理ドメイン単位でのPN管理が不要となり,迅速かつ少ない手順でのPN構築が可能とする.さらに,PN管理・制御のためのPNプラットフォーム機能により,デバイス間の相互接続性を容易にする. ユーザ主導型PNでは,キーデバイスとしてユーザが常時持ち歩く携帯電話を利用する.また,デバイスの能力に加え,PN構築に必要な機能のクリティカル度,PN構築手順の効率を考慮して機能を適切に配置し,PNアーキテクチャの設計を行う.

2C-4 (時間: 16:45 - 17:10)
題名ユーザ主導サービス構築のための仮想ネットワーキング技術 〜(2)オペレータ通信基盤を活用したデバイス認証・登録方式〜
著者*松中 隆志, 蕨野 貴之, 岸 洋司 (KDDI研究所), 中内 清秀, ベド カフレ, 井上 真杉 (情報通信研究機構)
Pagepp. 333 - 340
Keywordパーソナルネットワーク, IMS/MMD, モバイルコンピューティング, 認証
Abstract多様なデバイスが多様なアクセスシステムによってネットワークに接続されている環境下では,ユーザが,楽しみたいサービスを,ユーザの現在の環境(アクセスシステム,利用デバイス)に応じて,ユーザ主導で柔軟に構築することができるような仕組みが求められている.筆者らは,ユーザが,ユーザの現在の状況および要求するサービスに応じて,関連するデバイスが連携して構成される仮想ネットワークを,動的にかつ簡易に構築することを可能とするユーザ主導サービス構築プラットフォームを提案した1).本稿では,上記プラットフォームにおける簡易なデバイス認証・登録方式として,携帯電話をキーデバイスとした簡易なデバイス認証・登録処理を提案する.提案方式によって,ユーザは,利用するデバイスに事前に設定を行わなくても,上記プラットフォームに対して登録を行い,サービスを利用することが可能となる.