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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2010)シンポジウム

セッション 2E  ITSアプリケーション
日時: 2010年7月7日(水) 15:05 - 17:10
部屋: 弥生
座長: 重野 寛 (慶應義塾大学)

2E-1 (時間: 15:05 - 15:30)
題名走行車群におけるグループ形成アルゴリズムと通信方式に関する評価
著者*中村 慎吾 (愛知県立大学大学院情報科学研究科), 岡村 拓 (愛知県立大学大学院情報科学研究科/中部電力株式会社), 井手口 哲夫, 田 学軍, 奥田 隆史 (愛知県立大学大学院情報科学研究科)
Pagepp. 427 - 433
KeywordITS, 車群内通信, グループ形成, 車々間通信, 通信方式
Abstract日本における交通事故発生件数は年々減少傾向にあるが、2008年度の交通事故発生件数は全国で76万6147件に上るなど、依然として多発している。交通事故削減などを目的としたITS (Intelligent Transport Systems)と呼ばれる取り組みがなされている。 そこで、著者等は車々間通信を応用して、自動車群にグループを形成し、各車が行動を起こす前に自車両の意図を周知し、グループに所属する車両と合意・協力を得て協調走行することで、車両相互間の事故発生件数の削減や快適な運転の支援を目指す。 本研究では、走行車群におけるグループ形成のための通信方式を提案し、評価する。また、これらの評価にはOPNET社のネットワークシミュレータOPNETにより、通信トラヒックの評価を行う。 研究背景としては、走行車相互間における交通事故の削減を目的として、走行車群における合意形成手法の検討を行う。これにより、グループ内でドライバーが事前に自車の行動を周知し、周囲の走行車との合意形成を行うことで協調走行が可能になり、事故防止や快適な走行支援ができる。 走行車群における合意形成を達成するためのプロトコルスタックの階層構造として、走行車群における合意形成プロトコルはアプリケーション層に位置付けられ、インターネット層には提案方式であるWireless Direct Distribution Protocol(WDDP)を位置付ける。本稿では、 インターネット層のWDDPに注目し、検討する。 走行車群におけるグループ通信方式としてWDDPを提案する。WDDPは走行車群における協調走行を可能とするためのグループを形成し、各車両の要求や突発事象に対応した情報配信を行うためのプロトコルである。前提条件として、各車両を一意に認識するアドレスをそれぞれ保持し、Source Nodeはオンデマンドに発生するものとする。 提案するWDDPは、グループ形成フェーズと合意形成フェーズの2つのフェーズが存在し、これらをまとめて1トランザクションとして定義する。グループ形成フェーズはSource Nodeの発生からグループ形成を行い、合意形成フェーズは生成したグループにおいて合意形成を行うフェーズである。 次に、グループ形成フェーズの評価を行う。評価には、既存の技術であるAd-Hoc Routing Protocolを適用する場合と適用しない場合についてそれぞれ考察する。Ad-Hoc Routing Protocolを使用する場合についてはAODVを用いて検討する。 AODVを用いる理由として、Source Nodeはオンデマンドに合意形成を行うため、移動性の高い自動車への適用と、全体的なトラヒック削減を考慮し、Reactive型であるAODVを用いる。AODVを用いる際の前提条件として、宛先ノードが既知である必要性から、仲間内での利用が考えられる。 適用しない場合は、エニーキャストに基づくフラッディング(Any-cast Based)により、グループ形成を行う。この場合は不特定多数を対象とした配信が可能であるため、一般的な交通流制御に利用可能である。 本稿における評価には通信ネットワークシミュレータのOPNETを用いる。前提条件として、合意形成を開始する車両ノードをSource Nodeの1台に限定し、その他3台の車両ノードをGroup NodeまたはRegular Nodeとする。各ノードの走行速度は時速50kmで一定として、T字路において車両が合流する時点からグループ形成を開始し、並走中はそれを維持する。また、無線通信はIEEE802.11bを想定するため通信距離は100mとする。 Source Nodeは常にグループ形成を行うものとし、グループ形成に要する時間と、トラヒック量についてAODVを用いるAODV方式とエニーキャスト型フラッディングによる(Any-cast Based)方式の比較評価を行う。 AODVを適用する場合は、経路生成にユニキャスト型の通信を用いて行うため、グループ形成に要する時間が大きく、トラヒック量に関しても、多数のノードを対象とする場面ではエニーキャスト型フラッディング(Any-cast Based)よりも不利であると考えられる。 シミュレーションによる結果について述べる。T字路において合流する際に、グループ形成を行う場面におけるSource Nodeから各ノードへの送信パケットの遅延時間を示す。測定対象とするパケットは、Any-cast Based方式の場合はGroup Packet、AODV方式の場合はRREQパケットに相当する。 どちらの方式でも100ms以下の遅延を十分満たす結果が得られたため、グループ形成後にグループ運用を行う際には、AODV方式もAny-cast Based方式も問題なく利用可能であると言える。 次に、最初のパケットが各ノードへ到達する時刻について比較、考察を行う。Any-cast Based方式はほぼ同時に3ノードへ到達しているが、AODV方式はAny-cast Based方式と比較して、Node2へは平均で約0.3sec後、Node3とNode4へは約0.5secの遅延が見られる。したがって、Any-cast Based方式はリアルタイム性に優れており有効であると言える。 最後に、本稿において、安全かつ快適な運転支援を目的とした、走行車群における合意形成手法について述べ、それらを行うためのグループ形成手法を提案した。また、グループ形成における通信方式として、AODV 方式とAny-cast Based方式について比較検討を行った。 今後の課題として、シミュレーションモデルの拡張やグループ運用に関するアルゴリズムの検討を行うことが考えられる。

2E-2 (時間: 15:30 - 15:55)
題名通信統計データを用いた運転支援システム評価シミュレータの試験的構築
著者*中村 慎吾, 井手口 哲夫, 田 学軍, 奥田 隆史 (愛知県立大学大学院情報科学研究科)
Pagepp. 434 - 437
KeywordITS, 車々間通信, 運転支援システム
Abstract現在、日本の自動車社会における渋滞、事故、環境問題は深刻化しており、これに対し最先端の情報通信技術や制御技術を用いたITS(Intelligent Transport Systems)とよばれる取り組みがなされている。特に近年では車々間通信を用いたドライバーの安全運転を支援するためのシステムについて研究がさかんに行われている。 こうした車々間通信を用いた安全運転を支援するためのシステムでは確実な情報伝達が鍵となるため、多くの研究で、通信系シミュレータを用いた車々間通信のシミュレーションがなされてきた。しかし、通信系シミュレータの多くはITSを対象システムとしていないため、車両の移動モデルが提供されておらず、研究者が独自のモデルを用いている現状がある。また、シミュレーション毎に多くの計算量が必要となるため、シミュレーションに時間がかかるという問題も挙げられる。 本研究では、エージェントベースモデリングによって交通流、ならびに通信特性のモデル化を行い、単一エージェントの行動規則として定義することによって、車々間通信を用いた安全運転支援システムの評価シミュレータを構築することを目的とする。モデル化したエージェントの実装環境として構造計画研究所のartisocを用いる。 安全運転支援システムの評価シミュレータにおいて必要とされる機能について述べる。 安全運転支援システムはどのような情報をドライバーに対して提供するかによって情報提供を行う道路環境が異なることが考えられる。したがって安全運転支援システムの評価シミュレータにおいては道路構造が任意に決定できる必要性がある。また、対象となる道路における車両の流量や速度についての設定ができる必要が挙げられる。 また、対象道路上における通信環境を把握するため、配信される情報の到達率を算出する必要が挙げられる。 最後に、車両間の位置関係や個々の車両における情報などの道路環境情報や通信特性情報について動的に情報を閲覧する機能が必要であると考える。 上記の機能を指標としてモデル化を行っていく。まずエージェントの移動規則に関しては車両挙動の制御を進行方向と車両の加速度をパラメータとして用いる。方向の制御については、道路網をポイントを連結する形で構成することを考える。このポイントには道路上を走行する際のドライバーの局所的な行動目的を設定し、車両生成時に取得するルート情報によって決定されるものとした。加速度の制御ではIDM(Intelligent Driver Model)を用いるものとした。通信モデルでは個々の車両間におけるデータ送信時に送信確率に基づきデータ送信の可否を判定するものとし、送信確率には車々間通信の代表的な通信方式であるCSMA/CA方式の理論モデルであるp-persistentモデルを用いることで統計的な数値を用いる。通信処理を統計的データに基づく処理にすることで、通信系シミュレータのようなミクロモデルでのシミュレーションに比べ高速に処理を行うことが可能となる。このため、従来の通信系シミュレータと交通流シミュレータを連携させる方式に比べ、シミュレーション終了時の結果だけでなく処理速度の向上によってシミュレーションの経過情報を利用者がより把握しやすくできるという利点が考えられる。 前述したモデルに基づき、シミュレータの構成を行う。構築したシミュレータ上において、データサイズ、送信周期や通信を行う車両の台数、通信対象との位置関係に応じて車々間通信の特性がシミュレーション結果に反映されていることを確認することができた。 本稿では交通流、ならびに通信特性を再現するための道路構造並びにドライバーモデル、及び統計的データに基づく通信モデルをマルチエージェントシミュレータ上に実装し、車々間通信を利用した運転支援システム評価シミュレータの構築を行った。また、構築したシミュレータの評価を行い、結果から車々間通信の特性が再現されていることを確認した。 今後はシミュレーション可能な道路環境の拡張並びに車両台数の増加、複数の安全運転支援システムが混在する場合での統計的データ取得方式の検討、本シミュレータを用いた安全運転支援システムの評価、シミュレータの利用性向上のためのインターフェースの充実などを行う予定である。

2E-3 (時間: 15:55 - 16:20)
題名渋滞学に基づく高速道路における自然渋滞抑制システム
著者*中村 真吾, 俵 明宏, 中島 剛史 (東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 市村研究室), 久保田 彰人, 小林 祐貴 (東京工科大学院 バイオ・情報メディア研究科 市村研究室), 市村 哲 (東京工科大学 コンピュータサイエンス学部)
Pagepp. 438 - 445
KeywordITS, 高速道路, 渋滞
Abstract現在,日本の渋滞による損失額は年間12兆円と言われている.さらに2009年3月末より高速道路通行料金が地方部に限り上限1000円となったことにより交通量が増加している.高速道路通行料金値下げの影響により交通量の変化は,昨年の同時期と比べて1割〜5割増加している. 渋滞の主な原因は上り坂およびサグ部(緩やかな上り坂に切り替わる箇所)での速度低下となっている.サグ部の渋滞発生要因は,速度低下を起こした先行車と後続車との車間距離が短くなり,後続車がブレーキを踏むことで車間距離を維持する.このとき,先行車の減速量より多く減速するため,最終的には渋滞となってしまう.また渋滞が発生した後,渋滞区間に多くの車両が次々に進入してくるため渋滞が延長してしまう.現在は,標識やLED表示板などで上り坂と知らせるなど,速度回復を促したり,渋滞発生後に電光掲示板やラジオで情報提供をしたりしている.しかし,渋滞箇所は常に移動しているため,設置式の標識や掲示板では注意を促すことが難しい.また,渋滞起因となる車両は渋滞に巻き込まれているわけではなく,ドライバーは渋滞を作るきっかけになっているとは意識しないため,標識などにも注意を払うことが少なくなる.そこで,渋滞起因抑制,渋滞延長抑制を指示できる走行支援システムを構築した.渋滞起因抑制は,速度低下を起こしていない車両に対して速度に適した車間距離を通知する.また,サグ部において速度低下を起こした車両に対して速度回復の指示を出すことにより,渋滞起因を抑制するシステムである.渋滞延長抑制は,後続車に速度と車間距離の指示を送り,渋滞区間に入る車を減らすことにより,渋滞区間を抑制し,抜ける時間を短縮させる.また,発生した渋滞の内部にいる車両に対しては渋滞解消地点の情報を,渋滞解消地点にいる車両には速度回復を促し渋滞区間から出る車の割合を多くすることにより渋滞延長の抑制解消を行うシステムである.本システムでは3つのフェーズに分け,指示内容と通信タイミングを変化させた.一つ目は,渋滞開始地点から数km手前に入った車両を誘導区間フェーズとし,5分間隔で通信を行う.2つ目は,渋滞区間に入ると渋滞内部フェーズとし,1分間隔で通信を行う.3つ目は,その他を通常走行フェーズし,アプリ起動時,速度低下時,10分間隔で通信を行う.ユーザ側の使用するデバイスとして,通信ができること,GPS情報が取得できること,画面が大きいなどの理由からiPhoneを使用した.ユーザ側は自車情報を利用して車両の位置情報と速度情報を取得し,サーバに送る.その際送り返されてくる渋滞情報も合わせて利用して指示の作成,表示を行う.画面表示情報は運転の支障をきたさないために,最小限の情報で,背景色が赤なら渋滞内部,黄色なら警告時などのようにわかりやすく表示させた.サーバ側はユーザ側から自車情報が送られてきた際に,適正な渋滞情報を送り返す.その際に,ユーザ側の現在位置が設定したエリア内であり,かつ車両から半径100km以内の渋滞情報を送信する.本システムの評価として,セルオートマトンによる交通流解析モデルである,Nagel Schreckenbergの原理に基づいたシミュレーションを用いて実験を行った.モデル区間は,サグ部・小仏トンネル・車線数減少など,渋滞の起因となる要素が多く含まれている中央自動車道の上野原IC〜八王子ICをモデル区間とした.シミュレーション動作は,左端から通常車両とiPhone搭載車両を流入させ,右端から流出させた.車両の最高速度は 20セル(1セル=5m)であり,一回の動作で20セル動く.iPhone搭載車両は通常,通常車両と同じ動きをするが,渋滞区間が発生し,渋滞区間から設定した距離内に流入することで,設定した速度に徐々に近づかせるプログラムを作成した.シミュレーション評価は渋滞延長を抑制するシステムにあたって用いられる適正速度,警告区間の適切な数値を求めた.また,本システムの受容性と指示の表示内容にあたっての文言の受容性をアンケートにより評価した.また,iPhoneとサーバとの情報通知が正しく出来ているかを確認した.評価の結果,本システムの受容性は高い評価を得た.しかし,表示内容にあたって文字が見にくいとの指摘があった.アンケート結果によって割り出されたシステムを利用してくれる人の割合と,シミュレーション実験で割り出された渋滞を起こさないために必要なシステム導入車の割合の条件を満たしたので,実用性があるという評価がでた.本システムに賛成という意見に対して,利用したいという意見は減少してしまった.ユーザの利用率を増やすために,ゲーム要素やポイント制のサービスを導入することを考えている.サーバは渋滞延長予測を導入するために,シミュレーションとの並列処理を行うようにする.

2E-4 (時間: 16:20 - 16:45)
題名集合知としての走行軌跡により地図を更新するカーナビゲーションにおける道路位置推定手法
著者*菅原 弘光 (岩手県立大学院), 佐藤 永欣, 高山 毅, 村田 嘉利 (岩手県立大学)
Pagepp. 446 - 454
Keyword集合知, 地図作成, GPS
Abstract現在普及しているカーナビゲーションシステムの地図は,新道路開通後に,測量,地図データ作成・編集を経て,更新される.このため,地図データの更新に時間が掛かる.また,オンラインでの地図更新サービスも始まっているが,人手による測量と地図更新が必要であり,このため,高速道路のみが比較的短期間で更新されている.そこで,GPSによって得られる多数の車両の走行軌跡を集合知として用い,新道路開通を検出し,新道路の位置,形状などを走行軌跡に基づき推定する事により,地図を自動更新しオンラインで配布することで,新道路開通にも即時に対応できるシステムを提案する.

2E-5 (時間: 16:45 - 17:10)
題名UHF帯電子タグの高速移動における読み取り性能評価
著者*亀丸 敏久, 舩倉 英俊 (三菱電機情報技術総合研究所)
Pagepp. 455 - 462
KeywordRFID, 950MHZ, 高速移動, C1G2, タグ
Abstract自動車の車体の側面に電子タグを貼付し,リーダ装置によるID読み取り実験を行った.自動車がタグの読み取り可能エリアに入ると,リーダ装置がアンテナを経由し自動車に貼付されたタグを,連続的に読み続ける。主要な条件は,アンテナとタグ(自動車の走行路)の距離2m,リーダ装置とタグ間のタグ応答通信レート50kbps,自動車の走行速度100km/hである.10回の試行を行い,IDの平均読み取り回数4.8回という良好な結果を得た. 一方,実使用ではアンテナとタグの距離2mという条件はシステム構築上の制約となる.そのため,タグとの距離がより短いアンテナ設置条件において,読み取り回数がどうなるかを,現在進行している総務省令改正によるチャネル数の増加を踏まえて検討した.応答チャネルを3チャネル束ねることを想定し,200kbpsのタグ応答通信レートが実現できたれば,アンテナとタグの距離が1mであっても4.5回の読み取りが可能であるという見積もり値を得た.即ち,省令改正によるチャネル数の増加がもたらす通信速度の高速化が,アンテナ設置場所というシステム構築の制約を緩和することに貢献できることが確認できた.