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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 2E  センサーネット(2)(MBL)
日時: 2008年7月9日(水) 15:30 - 17:10
部屋: コスモ(1)
座長: 中村 直毅 (東北大)

2E-1 (時間: 15:30 - 15:55)
題名無線センサネットワーク省電力化機構HGAFの実環境評価
著者*大沢 昂史, 稲垣 徳也, 石原 進 (静岡大学)
Pagepp. 358 - 365
Keywordセンサーネットワーク, 省電力, 位置情報, 実装
Abstract 近年,協調動作をする小型の無線センサ端末を観測領域に複数配置し,環境情報を収集する無線センサネットワーク(WSN)が注目されている.筆者らはWSNの省電力化手法として,GAF(Geographical Adaptive Fidelity)を拡張したHGAF(Hierarchical Geographic Adaptive Fidelity)を提案している.本稿ではHGAFの無線センサ端末MICAz-Mote上での試作及びそれを用いた実環境での評価について述べる.  GAFは,観測領域を正方格子状に分割し,ノードを位置に基づいて複数のグループに分割する.各格子(セル)から予想稼働時間のもっとも長い1台のノードを転送を担うアクティブノードとして選出し,他のノードを休止させる.GAFでは1つのセルから1台のアクティブノードを選出するため,セル面積を拡大するほど観測領域内でのセル数が減りアクティブノード数が減る.つまり,セル面積を可能な限り拡大し稼動ノード数を減らすことでGAFは,より高い省電力効果を得ることができる.一方,GAFでは隣接セル間でのデータ転送の必要性から,隣接セルの最も遠い2点間の距離がノードの最大通信半径以下である必要がある.この制約により,GAFにおけるセル一つあたりの最大面積は制約を受け,セルの大きさを一定以上に拡大することができない.  HGAFではGAFよりも最大セル面積を拡大し,稼働ノード数を減らすことで更なる省電力化を図る.HGAFではGAF同様に観測領域を複数のセルに分割した上で,セルを更に複数の正方格子(サブセル)に分割する.すべてのセルにおいて同じ位置にあるサブセルをアクティブサブセルとして選び,その中のノードからアクティブノード選出処理を行う.これにより,HGAFではアクティブノードの存在位置を,セル内の特定の範囲(アクティブサブセル内)に限定することができる.よって,GAFでは隣接セル内の最も離れた2点間がノードの最大通信半径以下である必要があったのに対し,HGAFでは隣接セルのアクティブサブセルで最も離れた2点間の距離がノードの最大通信半径以下となればよい.これによりHGAFではセルを4つ以上のサブセルに分割した場合,最大セル面積をGAFの2倍以上に拡大可能となる.  また,HGAFでは負荷均等化のためにアクティブサブセルのローテーションを行う.この時,セル間の通信を保障するためにすべてのセル内でアクティブサブセルの位置が等しくなるように同期してローテーションが行われる.  HGAFを市販の無線センサ端末であるMICAz-Mote上に試作した.HGAFでは各ノードは位置情報に基づいて自身の所属するセル及びサブセルを決定する.よって,各ノードは何らかの方法を用いて位置情報を取得する必要がある.本試作では各ノードに対して,ソフトウェアのインストール時にあらかじめその設置位置に応じてノードが所属するセルID,サブセルID,セル一つ当たりのサブセル数の情報を静的に与えるものとした.  また,HGAFではGAF同様に休止時間の決定にバッテリ残量から予測される予想稼働時間を用いるため,各ノードが随時自身の稼働時間予測を行う必要がある.本試作では過去の起動時間をもとに仮想的に残存電力を管理することで稼働時間の予測を行った.各ノードに対してソフトウェアのインストール時に,電源容量,アクティブ時及びスリープ時の消費電流の情報を与える.ノードは1秒ごとに発火するタイマを持つ.タイマが発火するたび,電源容量から消費電流分だけ値を減じる.その時点での電源容量をアクティブ時の消費電流で除することで予想稼働時間とする.  更に,HGAFでは隣接セル間での通信の保証,及び同一セル内での複数のアクティブノードの存在を防ぐため,アクティブサブセルの交代時刻の同期が必要である.本試作では,1ホップブロードキャストされた起動信号の受信によりすべてのノードが動作を開始するタイミングを揃えることで簡易的な時刻同期とした.  試作したHGAFにおいて,アクティブノードの交代処理及びアクティブサブセルの交代処理の動作を確認するための実験を行い,実装したHGAFが正しく動作していることを確認した.また,実装したHGAFとHGAFのベースとなるGAFを同一のノード配置の観測領域において稼動させた場合の実験により,両者の省電力性能を比較することでHGAFの有効性を示す.

2E-2 (時間: 15:55 - 16:20)
題名スマートアンテナを利用する階層型センサネットワークの実装と評価
著者*坂本 浩, 萬代 雅希, 渡辺 尚 (静岡大学情報学部)
Pagepp. 366 - 373
Keywordセンサネットワーク, スマートアンテナ, MOTE
Abstractセンサネットワークでは非常に多くの端末を利用することから安価で大量生産が可能な同一機能の端末の使用が一般的である.そのため安価で小型化が可能な無指向性アンテナの利用が前提となる.しかし,大規模ネットワークを構築する場合や遠隔地でデータの収集,複数地域のデータを一括して収集する場合には,観測地とデータ収集地点との距離が大きくなり,データを中継する場合に多くの端末が必要となる.中継端末数が増加するとそれぞれの端末による伝送処理が必要となり,その分の電力や時間が必要となり,スループットの低下やネットワークライフタイムを短縮するといった問題を起こす.これらの問題を解決する方法に,スマートアンテナの利用が考えられる.スマートアンテナは,アンテナの指向性を電子的に制御可能で,ある特定方向へのみ送受信ビームを出すことができる(指向性通信).また,ビームを絞ることで特定方向の通信距離を拡張できるという特徴がある.それらの特徴を利用しスマートアンテナをもつ端末でデータの中継をさせると,中継する端末数を減らすことができるためスループットの向上やネットワークライフタイムを延長する事ができる.しかし,スマートアンテナは高価でありアンテナが大きくなるという問題がある.本稿では,無指向性アンテナとスマートアンテナを併用した階層型センサネットワークを提案する.スマートアンテナは多数に使用する事が困難であることから,クラスタヘッドとして中継のみを行う端末として使用する.無指向性アンテナを利用してセンシングを行う階層とスマートアンテナを利用して中継を行う階層とを役割により分けることで,無指向性アンテナとスマートアンテナの欠点を補う階層構造のセンサネットワークを形成し,センシング層の中継負荷の削減による省電力化と,中継層において収集したデータを効率的に基地局へ届けるためにスループット向上を目的とする.また,本稿では無指向性通信をするノードにMICA moteを利用し,指向性通信が可能なノードにUNAGI(Ubiquitous Network testbed with an Adaptively Gain-controlled antenna for performance Improvement)を利用して実環境での評価を行う.

2E-3 (時間: 16:20 - 16:45)
題名無線センサネットワークにおける電波到達特性の実測に基づく経路構築について
著者*能勢 康宏, 神崎 映光, 原 隆浩, 西尾 章治郎 (大阪大学大学院情報科学研究科マルチメディア工学専攻)
Pagepp. 374 - 381
Keyword無線センサネットワーク, 送信電力制御, 経路構築, パケット到達率, データ転送
Abstract無線センサネットワークでは,ノードに搭載されるハードウェアは貧弱であり,電力や通信の面で多くの制約が存在する.そのため,電力効率および通信品質の良い通信経路の構築が重要であり,数多くの研究がなされている.その中でもノードの送信電力制御は,近年最も活発な研究が行われている分野の一つである.しかし,既存手法では,ノードが送出する無線信号が全方向に均等に伝播するモデルを前提としている.一方,実環境においては,周辺に存在する物体やアンテナ特性などの影響により,既存手法で想定しているモデルは適用できない.そこで本稿では,電波到達特性の実測値を利用した通信経路構築手法を提案する.提案手法では,各ノード間で電波到達特性を測定し,その結果を用いて各ノードからシンクノードまでの通信経路および,各ノードの送信電力を決定する.

2E-4 (時間: 16:45 - 17:10)
題名データ収集型WSNでのk重被覆の保証および稼働時間の最大化を目的とした移動センサノードの位置決定および通信経路構築手法
著者*勝間 亮 (奈良先端科学技術大学院大学), 村田 佳洋 (広島市立大学), 柴田 直樹 (滋賀大学), 安本 慶一, 伊藤 実 (奈良先端科学技術大学院大学)
Pagepp. 382 - 395
Keywordセンサネットワーク, 可動ノード, k重被覆, 省電力ルーティング, 遺伝的アルゴリズム
Abstract近年,広域に設置された多数の小型センサがセンシングした情報を無線マルチ ホップ通信により交換することで環境情報の収集やオブジェクトの追跡などを行 うワイヤレスセンサネットワーク(以下,WSN)およびそのアプリケーションが 注目されている.典型的なアプリケーションとして,農地のエリアごとの温度や 光量などの情報を一点(基地局)に収集し,収集した情報を用いて作物の育ちや すい環境を作るシステムなどが構築されている.WSN における各センサは長期 間の動作を要求されるが,ネットワークのノードとしてデータ送受信も行う必要 があることから,その動作時間はバッテリ容量および通信量,通信距離等に応じ て変わってくる.WSN を長期間稼働させるため,センシングやデータ転送の省 電力化を行う研究が行われている.例えば,通信頻度を調整して省電力化を実現 する手法や,センシングした情報をノード間で統合して通信データ量を削減 する手法などが提案されている. これら既存研究の多くは,一度配置されるとそれ以降は移動できないセンサ ノード(静止ノードと呼ぶ)のみが使用されることを想定している.静止ノード のみのWSN では,センサノードのバッテリ寿命や故障によりセンシングできな くなった領域を自動的に修復することはできない.そこで,近年,車輪とモータ 等を備え,対象領域を自由に移動できるセンサノード(移動ノードと呼ぶ)が利 用され始めている.例えば,移動ノードが移動することで,バッテリが尽きたノー ドや故障したノードのセンシング領域を埋め合わせる手法が研究されている. 他にも,センサノードの不足している領域を検出して,移動ノードを移動させる ことでセンシング領域全体を拡大する手法も研究されている.しかし,これ ら移動ノードを用いる既存手法は,広範囲のセンシング領域の確保に注力してお り,移動ノードを利用してWSN の稼働時間を延長する手法は扱っていない. 本論文では,データ収集を目的とする,静止ノードと移動ノードから構成されるWSN において,広範囲のセンシング領域をできるだけ長時間保持するような,移動ノー ドの適切な移動先,および,データ収集のためのマルチホップ通信経路を構築す る手法を提案する.移動ノードは静止ノードに比べて高価であり(現状では,移 動ノードは静止ノードの約2倍の価格である),全てのノードを移動ノードとす るにはコストがかかる.そのため提案方式では,多数の静止ノードに対し,少数 の移動ノードを導入する環境を想定する.本論文では,まず,センシング対象領 域,対象領域上の基地局および各センサノードの位置,各センサノードの通信や 移動にかかる消費電力量,1回のセンシングで取得されるデータのサイズ,セン シングする時間間隔が与えられた時,対象領域をk重被覆(対象領域内のどの地 点もk 個以上のセンサノードのセンシング範囲内にある状態)し,与えられたパ ラメタのもとでWSN の予測稼働時間が最長となるような,移動ノードの移動先お よび全ノードからのセンシングデータを基地局に収集するためのマルチホップ通 信経路(木)を求める問題を定式化する.本問題はk=1の時,NP完全問題として 知られているMINIMUM GEOMETRIC DISK COVER問題を含むため,最適解を実用時間 で求めるのは困難である.そこで,準最適解を実用時間で求めるため,遺伝的ア ルゴリズム (Genetic Algorithm,以下GA) に基づいた近似アルゴリズムを提案す る. 提案アルゴリズムでは,各移動ノードの移動先および各静止ノード,移動ノード のデータ収集経路における次のノードを解候補として符号化する.そして,最初 にランダムに値を設定した複数の解候補(初期解)を与えて,評価,交叉,突然 変異,選択の操作を行い,解を進化させる.この際,良い解が導出できるかどう かは,初期解の品質に依存するため,品質の良い初期解を生成するために次のよ うな最適枝数探索法を考案した.まず,データ収集用通信経路において,基地局 ノード(データを収集するノード)に近いノードは,より遠方のノード(子孫ノー ドという)のデータを中継するため通信回数(通信量)が多くなる.したがって, 基地局に直接接続するノードおよびその数を,中継に必要な通信量を考慮した上 で決定する.具体的には,基地局に直接接続するノード(1段目ノード)の数n を,基地局との距離が近い順に増やしていき,残りのすべてのセンサノードの中 継先を,1段目ノードの中継のための消費バッテリ量が均等になるよう分配し,n 個の1段目ノードの消費バッテリ量の和が最小になるnを求める.分配された各セ ンサノード集合について,同様の手法で2段目以降のノードを決定し,最終的に 基地局を根とし全てのセンサノードを接続する木(データ収集木と呼ぶ)を構築 する.このようにして求まった木をGAの初期解の一部として含ませ,GAの操作を 適用して,進化させることで,より優れた解を導出する. 提案方式により構築したデータ収集木の効率を評価するため,提案手法を実装し, 他の2種類のデータ収集木構築アルゴリズムとのWSN稼働時間の性能比較をシミュ レーションにより行った.その結果,提案方式は,センサノードの数が100のと き,対象領域をk 重被覆するWSNの稼働時間を,他の手法より78〜165%延長でき ることを確認した.また,静止ノードの数が7,移動ノードの数が3の時,最適解 と比較して,97.1% 程度の稼働時間を達成することを確認した.さらに,データ 収集木の計算時間は,静止ノードの数が75,移動ノードの数が25の時,一般的な PCで31.4 秒程度となり,十分実用的であることを確認した.