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マルチメディア,分散,協調とモバイル(DICOMO2008)シンポジウム

セッション 5I  ユビキタスプラットフォーム(2)(UBI)
日時: 2008年7月10日(木) 10:20 - 12:00
部屋: ビューホール(2)
座長: 和田 雅昭 (はこだて未来大)

5I-1 (時間: 10:20 - 10:45)
題名振動の入出力を行う汎用的な小型デバイスの設計と実装
著者*久保 建太 (神戸大学大学院/工学研究科電気電子工学専攻), 竹川 佳成 (神戸大学/自然科学系先端融合研究環重点研究部), 寺田 努, 塚本 昌彦 (神戸大学大学院/工学研究科電気電子工学専攻), 細見 心一, 西尾 章治郎 (大阪大学大学院/情報科学研究科マルチメディア工学専攻)
Pagepp. 1211 - 1218
Keywordユビキタスコンピューティング, ウェアラブルコンピューティング, 小型振動デバイス, インターフェース
Abstract近年,情報の秘匿性や視聴覚情報を拡張できるといった利点から,携帯電話やゲーム機のコントローラなど生活の様々な場面で,振動による情報提示が利用されるようになってきている.特に,携帯電話のバイブレーション機能が,ユーザが周囲の環境に及ぼす影響を低減できるため,ユーザに好んで用いられていることなどから,振動による情報提示の有用性を確認できる.以上のような利点から,振動を用いた情報提示の研究は盛んに行われている.従来研究では,マウスと振動子を組み合わせることによるポインティングの補助や,点字の入出力を行うデバイスによりコミュニケーションの支援をするなどの用途への振動の応用が提案されている.筆者らのグループではこれまでにマイコンや振動モータを用いて点字の入出力が行えるデバイスを開発し,振動を用いた新しい情報提示方式を提案した.これらの用途の他にも,環境の振動をセンシングし,振動情報の記録・再現を行うことで,ラジコンの車体の振動をコントローラに伝達し,車体と同じように振動させるといったような,振動の新たな応用が考えられる.しかし,現時点では振動パターンの制御は非常に単純で,あらかじめ設定された数種類程度のパターンを再生するだけであるか,あるいは映像に同期させた振動の開始・終了タイミングの制御を行っているだけであり,振動の伝達や記録・再生を行えるようなデバイスは提案されていない.特に,CGキャラクタの動きに合わせて現実世界を振動させるといったような,振動をメディアアートに用いる際には,複数個配置された振動子毎に振動パターンを記録し,再生するタイミングを同期させることは不可能な状況である. そこで,本研究では振動認識を行うセンサと振動子を搭載し,入出力の制御をマイコンにより行うことで,振動を用いた様々なアプリケーションに利用可能な汎用デバイスを提案する. 提案デバイスでは,振動認識センサが環境の振動やデバイスに与えられた振動を認識し,振動データをデバイス内に記録する.記録された振動データを振動子により再生することで,振動を再現できる.また,記録された振動データを他のデバイスに送信し,他のデバイスが振動データの再生を行うことで,振動の伝達ができる.具体的なアプリケーションの例として,野球のサインなどの秘匿情報を振動で伝達するシステムや,入力された振動のリズムを繰返し再生する振動メトロノームなどが挙げられる.提案デバイスは,デバイス内に入力装置,出力装置,記録装置,入出力制御装置を搭載することで,他のデバイスを用いることなく振動の再現や振動の伝達といった機能が利用できる.さらに,デバイスに特定の振動パターンを入力することでデバイスの動作モードの変更を行える手法を提案する.この手法は,ユビキタスコンピューティングやウェアラブルコンピューティングにおいて,デバイスをあらゆる環境に配置したり,体に装着したりした場合の動作モード切替えに有用である.例えば,ユーザがポケットに入れたデバイスの動作変更を行う際に,従来のようなスイッチやボタンによるモード切替えを使用すると,対象デバイスをポケットから取り出し,押したいスイッチやボタンを視認してから操作を行わなければならない.提案手法を用いることにより,ユーザは特定の振動パターンをポケットの上から入力することでデバイスの操作が行える.加えて,複数の振動子を振動媒体上に並べて振動媒体を振動させることでデバイスの一括制御が実現できる.これにより,各デバイスへの位置情報の付与や,振動の再生を行うタイミングの同期が複雑な制御を必要としない. 振動の入出力制御のパラメータを決定するための実験を行った.まず,ランダムに与えた数種類の振動パターンを,被験者に判別させて振動の認識率を調べた.次に,環境にデバイスを配置した際のデバイスによる振動の認識率を確認するために,振動認識センサを配置したさまざまな媒体に振動を与え,観測される振動データに対する評価を行った.前者の実験から,出力振動パターンのパラメータを適切な値に設定でき,ユーザは感覚的に振動による情報提示を認知できる.また,後者の実験結果をもとに振動認識時に生じる残響振動やノイズを除去するフィルタを製作することで,デバイス間において高精度な振動認識を実現した.

5I-2 (時間: 10:45 - 11:10)
題名小型センサノードのための環境適応型ルール処理エンジン
著者*児玉 賢治 (神戸大学大学院工学研究科), 柳沢 豊 (NTTコミュニケーション科学基礎研究所), 藤田 直生, 寺田 努, 塚本 昌彦 (神戸大学大学院工学研究科)
Pagepp. 1219 - 1226
Keywordセンサノード, センサネットワーク, ルール, コンコンテキストアウェアネステキストアウェアネス
Abstract近年,小型のセンサノードを実世界中の様々な場所に配置し,実世界で起こったイベントを情報化しようとする研究が盛んに行われている.これにより,多くの実世界の情報をコンピュータが扱えるようになり,今までにないサービスを提供することが可能になる.たとえば,センサノードをユーザや様々な物に取り付けて得られるセンサデータからそれぞれの状況を取得し,ユーザの生活を支援するコンテキストアウェアなサービスを提供するシステムが考えられている. このようなシステムの実現において,センサノードを用いてイベントを取得するために,ルール処理を用いたイベント駆動型のセンサノードの動作方法が提案されている.このルール処理エンジンは,ある設定された条件が満たされるとき,センサノードは設定されたそれに対応する動作を行う.この方式は,センサノードの動作を簡潔に記述できる点や通信量の削減,リアルタイム性などの点に特長がある. しかしながら,イベントを取得するための条件を固定で与えておくと,環境や状況の変化に伴い,予め与えておいた条件ではイベントの検知精度が下がることがある.たとえば,センサノードのバッテリ残量が少なくなり電圧が低下する場合には,バッテリ交換を要求するとともに動作周期を低くして消費電力を抑えたい.この場合,センシングの条件が予め設定したときの条件と異なるため,イベントの検知精度が下がる可能性がある. このような問題を解決する最も簡単な方法は,多くの状況に対応するルールを用意することである.しかし,多くのルールを用意することは小型センサノードのメモリ容量を圧迫し,用意できるルール数が実質的に減少してしまう.これを回避するには状況に合わせてルールを一斉に自動的に書き換える機構を用意する必要がある. そこで本研究では,メタルールと雛形のルールを用いて環境や状況の変化に対応した動作ができる環境適応型のルール処理エンジンを提案する.提案手法では,メタルールを用いて,センサノードの動作を決定するルールの適用条件や,パラメータを更新することで環境や状況の変化への適応を実現する.また,雛形のルールから対応するルールを生成し変化への適応を試みる.そして提案手法の評価のため,著者らが開発しているセンサノードに実装して実験し,その有効性の確認を行う.

5I-3 (時間: 11:10 - 11:35)
題名複数スマート・センサの協調による実世界イベント認識
著者*根岸 佑也, 河口 信夫 (名古屋大学大学院 工学研究科 電子情報システム専攻)
Pagepp. 1227 - 1234
Keywordスマート・センサ, 実世界イベント認識, スマート・オブジェクト構築支援, ユビキタス・コンピューティング
Abstract近年,我々の生活を取り巻く物や家具,建材までに計算機を埋め込み,日常生活の支援および豊かなユーザ体験を可能にするユビキタス環境の実現が期待され,Context-Awarenessや,実世界とデジタル世界とのインタフェースとなるスマート・オブジェクトが盛んに研究されている.ユーザや周囲の状況を取得するデバイスとしては,温度・圧力・加速度センサなどが利用され,それらを集約したMOTEなど小型デバイスも研究されている.特に加速度や環境音をデジタル信号解析する行動認識システムでは,より詳細に状況を認識可能なことがPaul Lukowiczらなど多くの既存研究により示されている.  しかしながら,既存研究の多くはそれぞれのアプリケーションに特化したデバイスやアルゴリズムに焦点を当てたものが多い.実世界のイベントは多種多様であり,個別に対応することは手間である.信号処理に詳しくないユーザにとって,特徴量解析や認識処理の設計は容易ではない.Do-It-Yourselfとして一般ユーザが,信号処理に詳しくない開発者が,環境音認識など用いたスマート環境を手軽に構築したい場合,信号処理プログラミングをすることなく即興的に,それら認識機能をシステムに組み込み可能なことが望ましい.  我々は高度なスマート環境の開発を支援するため,本研究を通じて,信号処理に詳しくないユーザでも,加速度や音を用いた詳細な実世界イベント情報を手軽に取得可能にするスマート・センサの実現を目指している.まず我々は,豊富な情報を含むコンテクスト・メディアの一つである音に着目し,実世界の音イベントを即興的に学習可能な小型・低コストのセンサ・デバイスであるInstant Learning Sound Sensor を提案してきた.このスマート・センサにより,ユーザは認識させたいイベント音を,対象物にマイクとして圧電素子を貼り付け,実演により指示する操作のみによって,対象音をセンサ・デバイスに教え込むことができる.また,1つのデバイスが認識可能なイベントを1,2種類に特化することにより,小型デバイス単体にて音認識処理を実現した.  本稿では,スマート・センサによって認識可能なイベントのさらなる多様化を目的に,複数のスマート・センサを協調させることにより,複数の音イベントを統合し,メタ-イベント情報を抽出する手法を提案する.本研究におけるメタ-イベント情報とは,イベント間の順序性や同時性などの依存関係,空間的な位置関係などの情報を指す.これまで提案してきたスマート・センサは,単一のイベントを検出するに過ぎなかった.しかし,実世界のイベントには,いくつかのイベントの集合によって構成されるメタ-イベントも存在する.複数のスマート・センサからの認識結果を組み合わせることにより,より多様な実世界イベントに対応できると考えられる.依存関係の例として,洗面所をオートメーション化したい場合,蛇口をひねる音の後に歯を磨く音があるかないかでは,ユーザが次に欲しいと思うものはタオルか,水が注がれたコップであるか異なる.位置関係の例として,研究室に入室するユーザを特別な携帯デバイスなしに識別したい場合,下駄箱に靴を入れる音の発生位置に応じて類推することが挙げられる.  本手法では,イベント間の同時性を識別するために,階層型ニューラルネットワークを利用する.イベントの有無を条件とするルールを用いた実現手法もあるが,本研究の対象は音である.そのため,基準パターンとの類似度の分散などを考慮し,単純なルールよる手法は適さないと考えた.各スマート・センサにおける観測信号と認識対象パターンとの類似度を入力層に,出力させたいアクションを出力層に対応付ける.出力層のニューロンの個数は,アクションの数だけ定義する.結合荷重の学習は,事前にユーザにトイベントの組み合わせと対応するアクションを指定してもらい,誤差逆伝播法により行う.  イベント発生源の位置推定は,2つ以上の圧電素子にて観測された音の振幅値の比率と,圧電素子と発生源との距離の比率の関係のモデルを用い,位置を推定する.比率を用いる理由は,ユーザの行動などによって発生した音は,毎回振幅レベルが同じとは限らず,絶対値によるモデル化が難しいためである.センサ2つの組みごとに,観測された振幅値の比率と各位置における存在確率を計算する.モデルは,ユーザが取得したい箇所においてイベントを数回観測することにより,誤差を考慮し構築する.  実際に,実環境より収集した観測音を用いて,同時性の関係を持つメタ-イベント認識と位置推定のシミュレーションを行い,本手法の実現性を確認した.本手法を用いることにより,複数の音イベントの依存関係,音の発生位置を利用したスマート環境の構築支援の実現を期待できる.

5I-4 (時間: 11:35 - 12:00)
題名RFIDタグ・センサの差異を隠蔽するプラットフォームとアプリケーションの提案
著者*石山 慎 (公立はこだて未来大学大学院), 高橋 修, 宮本 衛市 (公立はこだて未来大学)
Pagepp. 1235 - 1242
KeywordRFIDタグ, センサネットワーク, ユビキタス
Abstract 近年では、RFIDタグやセンサなどを利用したシステムが 社会に普及しはじめており、それに伴いRFIDタグ・センサ に関する研究が多数行われている。しかし、これらは個々の製 品をベースとしたものであり、異機種のRFIDタグ・センサ を組合せて利用する研究は殆ど行われていない。ユビキタスネ ットワーキングの基盤となり、種々のアプリケーションから異 機種のRFIDタグ・センサを組合せて統合利用出来る基盤シ ステムを提案する。具体的には、システムの基本アーキテクチャと実現方式、及びプラットフォームのAPIとアプリ ケーションを提案する。また、提案方式に基づきRFIDタグ・センサを用いた試作システムの概要 と、その実証評価結果を報告する。  本システムの基本動作は、各種タグ・センサの情報をPC・PDA などの端末(リーダ・基地局)で取得した後、別途設置された サーバに全ての情報が蓄積され、その情報がサーバに接続され たマシンから使用可能となるというものである。本システムに おいて、各種タグ・センサの情報を取得し、サーバに送信する 部分を「各種タグ・センサ部」、サーバでタグ・センサの情報 を受け取りデータベースに保存する部分、およびサーバに接続 された部分からサーバのデータベース内部の情報を取得する部 分を「ミドルウェア部」、サーバに接続された部分である「ア プリケーションシステム部」、そして、各部分を結ぶ「インタ ーフェース部」とする。本システムの特長としては、複数のR FIDタグ・センサネットワークが統合されているため、位置 情報・気温・光度・震動など様々な情報の取得が可能となるこ と、またRFIDタグ・センサを複数箇所に設置した場合でも 、それぞれの場所の情報が取得可能になることの二つがあげら れる。  本研究では本システムを構成する、各種タグ・センサ部、ミ ドルウェア部、インターフェース部の検討を行った。各種タグ ・センサ部では、RFIDタグ・センサ情報取得機能とRFI Dタグ・センサの配置方法について、ミドルウェア部ではRF IDタグ・センサ情報の統一・管理機能、データベース構造、 RFIDタグ・センサの取得地点確定方法、およびデータベー スからのデータ取得方法について、インターフェース部では各 部間のデータ通信機能についてそれぞれ検討を行い、検討に基 づき試作システムを構築した。  試作システムでは、アクティブタグであるSpiderV、パッシ ブタグであるV720、センサであるMOTEが組み込まれており、そ れらから情報を取得可能となっている。また、情報を蓄積する サーバ内部には、RFIDタグ・センサ情報を蓄積するための データベース、そのデータベースにアクセスするためのミドル ウェア、そして本システム利用者を支援するためのAPIが実 装されている。このうち、SpiderVとMOTEからの情報取得にはPC を用い、V720からの情報取得にはPDAを用いている。また、ミ ドルウェアはPHPで、データベースはMYSQLで構築されている。 実装したAPIには、サーバに設置されたデータベースからの データ取得を行うAPIとデータベースを管理するAPIがあ る。データ取得の際に用いるキーとなる値は、位置情報・時間 ・IDといった値があげられる。これらのAPIは、既存のアプリケーションを調査・分類し、アプリケーションに 必要な機能を検討した上で設計しており、様々なアプリケーション開発に用いることが可能であると言える。  試作システムの評価実験として、今後データ取得時間・デー タ取得精度といった性能評価と、システム用のテストアプリケ ーションを用いたシステムの評価を行った。  今後の拡張としては、セキュリティの実装、APIの拡張が 考えられる。前者は、現状のシステムではセキュリティは考慮 していないものの、RFIDタグ・センサで扱うことのできる 情報は人のプライバシーに関わるものが多いため、情報保護の 観点から、漏洩を防ぐ必要がある。後者は、今回提案したアプ リケーションを本プラットフォームで動作させる場合に、足り ない機能が有ることが発覚したため、それを補うためにAPI の拡張が必要であると考えられる。